まだあなたが好きみたい
「……ふ、ふーん!? て、てめぇ、それだけかよっ!」
「何か文句? むしろ、よくもやってくれたわねって逆にわたしがキレたいところよ。柄にもないうえ、慣れないことするからほら、見て、この鳥肌!」
えっ、と窪川は動揺したように菜々子の腕を注視した。
そして何を思ったか、妙にしみじみとした口調で、
「それは、つまり………俺様に大感激ってこと――」
「ちっがうわよ! うぬぼれるのも大概にしなさいよ! どうしてそう超ポジティブに受け取れるわけ? わたしの忍耐を試してるの、ねえ!?」
「してねーよそんなこと! だったら逆に聞くけど、なんで助けられて感謝しないんだよ。感激しろよ。ありがとうって素直に言えよ。どうしてそんな簡単なことができないんだよ。俺が責められる意味がわからねぇ!」
「意味? ほう、意味? わかんないかな。言ってるでしょ。頼んでないって。頼んでもないのにあんな恥ずかしいことされた挙げ句、一方的に引きずられてよくわかんない状況だし。なにが感謝よ。わたしは明日からもあの電車に乗るんですけど! むしろあなたにこそ謝罪して欲しいくらいよ。土下座のひとつもしてみたら、ほら!」
菜々子が地面を指さすと、またぞろ窪川のこめかみにミミズのごとき血管が浮き上がった。
「はあ!?」
菜々子も負けじと言ってやる。
「はあ!?」
ヤンキーもかくやという剥き出しの怒りがぶつかり合う。