まだあなたが好きみたい
「でもまあおまえだって一緒なんだから関係ないか。それよりあぁあ、おまえ、こんなところに簡単に乗り込んで来てよかったのかよ。おまえ、来年から公式戦に出られなくなるかもしれないぞ」
「脅しなんか通用しねぇぞ。言っとくが俺は未遂だからな」
「それだってイメージダウンは避けられない、大きな痛手になるよ。それに、おまえがしゃしゃり出てきたせいで、あの子の苦労も水の泡だ。せっかく上手くいってたのに。だからって俺は容赦なんかしないからな。恨むなよ」
あの子?
「なんのことだ」
「なんだ、知らないのか」
と、眼鏡は含み笑いを洩らし、
「まあ別にいいだろ。どうせ一度はおまえがだまくらかして学校中の笑い者にした女だ。電車ではいい人ぶってどこからかあいつを助けに来たが、あれは過去の罪滅ぼしのつもりだったのか? まさかな。おまえみたいなクズが一朝一夕に変われるわけがない。どうせまたくだらないことでも計画してるんだろ。だもんな、おまえにとってはあいつがどれだけ中傷されようと嘲笑されようと屁でもねぇ」
そう言って眼鏡は哄笑した。
浴室に木霊する下卑た笑い声を聞きながら、匡はにわかに意識を失いそうになった。
膝がふるえる。今度こそ心臓が止まるかと思った。
吉田のことだ。
俺がだまし、学校中の笑い者にした――紛れもなく吉田その人のことだ。
こいつはどうやら、俺たちの中学時代の暗黒の思い出を、洗いざらい世間に公表するつもりでいるらしい。
それがわかった瞬間、そうか、と唐突にすべてを理解した匡はよろめき、背後のドアにぶつかった。
そういうことか。
だから、有正はあんな不自然な行動に……。