まだあなたが好きみたい

(吉田の過去をばらさせない代わりに、睦美を手引きしたんだ)


だから、ぼくでも守れる、だったんだ。


人道にもとる行いだと知りながら、脅しに屈せずにはいられなかった。

吉田菜々子を守りたかった。

あいつは。


(このやろう……!)


匡の中で怒りが爆発した。

憤懣やるかたない思いで声を限りに叫ぶ。


「……貴様!」

「おーっと、それ以上近づくなよ。軽はずみなことすると、こいつの頭がますますひどいことになっちゃうからね。明日も学校だろ? 間違って切りすぎたら、しばらく学校に行けないじゃないか。心配すんなよ、俺はこう見えて芸術家の血を引いてるんだ。だからどんなに残酷なやり方でも、最後はちゃんと美しさを重視するのさ」


鼻につく口調で言って、眼鏡は今度は睦美を洗面台に座らせた。

ふぅんとしばし思案げに左右を見比べたかと思うと、いきなり腕を振り上げ、一気に両方のもみ上げを剃り落とした。

睦美は猿轡の下で悲鳴を上げた。


「や、やめろ! 耳が切れたらどうするんだ」


匡の忠告にも、だから? と眼鏡は気のない口調で言った。


「別にいいんじゃないか?」

「警察に捕まるぞ」

「そのときはお互い様だな。警察に突き出されるのも、地獄に落ちるのも、俺たちは一緒だ」

< 366 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop