まだあなたが好きみたい
(吉田の過去をばらさせない代わりに、睦美を手引きしたんだ)
だから、ぼくでも守れる、だったんだ。
人道にもとる行いだと知りながら、脅しに屈せずにはいられなかった。
吉田菜々子を守りたかった。
あいつは。
(このやろう……!)
匡の中で怒りが爆発した。
憤懣やるかたない思いで声を限りに叫ぶ。
「……貴様!」
「おーっと、それ以上近づくなよ。軽はずみなことすると、こいつの頭がますますひどいことになっちゃうからね。明日も学校だろ? 間違って切りすぎたら、しばらく学校に行けないじゃないか。心配すんなよ、俺はこう見えて芸術家の血を引いてるんだ。だからどんなに残酷なやり方でも、最後はちゃんと美しさを重視するのさ」
鼻につく口調で言って、眼鏡は今度は睦美を洗面台に座らせた。
ふぅんとしばし思案げに左右を見比べたかと思うと、いきなり腕を振り上げ、一気に両方のもみ上げを剃り落とした。
睦美は猿轡の下で悲鳴を上げた。
「や、やめろ! 耳が切れたらどうするんだ」
匡の忠告にも、だから? と眼鏡は気のない口調で言った。
「別にいいんじゃないか?」
「警察に捕まるぞ」
「そのときはお互い様だな。警察に突き出されるのも、地獄に落ちるのも、俺たちは一緒だ」