まだあなたが好きみたい

匡は唇を噛んだ。

何を言ってもこいつの思う壺だ。

だが、すべてを知り得ている者の前に、刃向かう術があるだろうか。

おののく気持ちを叱咤して、匡は懸命に思案した。

自身も相手の弱みにつけこんで中田の計画に加担した一人だからこそ、今度は自らがその餌食にされている事実が悔しくて、情けなくて、今にも頭が煮えそうだった。

すべてが眼鏡の筋書きどおりなのも、有正が睦美の気持ちを利用したのも、全部気持ち悪い。

彼氏をひどい形で裏切ったとはいえ、自由を奪った女の髪を滅多やたらと切ることほど残酷なこともないのに、それを静観しているしかない自分自身に一等嫌気がする。

どうなってんだよこれ。

頭に来る。

がんじがらめの自分に反吐が出る。

だからこそ諦められなかった。

抜け道が、きっとどこかにあるはずだ。

俺は嫌いなんだ。

俺の思い通りにならないことが。誰かの言いなりが。

だから高校では強くなると決めたんだ。

それにこのままでは吉田との未来も一生手に入らなくなってしまう。

今だって十分危ういけれど、それでも、手に入らない…かもしれない、というぎりぎりの状況に望みを繋いでいる匡にとって、これ以上関係が悪化する事態だけは避けなければならなかった。


(でも、どうする……。こいつ、ガチでやばいタイプだ。中田と似てるけど、あいつほど血の気が多くないところが逆に始末が悪いな、くそ)

< 367 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop