まだあなたが好きみたい
もみ上げを剃り落としたときのあの連続殺人鬼並みの躊躇のなさは、異常だ。
中田は残酷でも、こいつほど冷酷ではなかった。
そのちがいはでかい。
(まずい。手が思い浮かばない。どうする)
焦れるとますます思考は鈍った。
(どうやったらあいつの気を逸らせるだろう)
眼鏡の望みは睦美を絶望のどん底へ突き落とすことだ。
だからこそ、匡を言葉で押さえつけた状態で睦美をいたぶることにより、二人きりのときよりも彼女の恐怖と屈辱を煽って愉しんでいる。
眼鏡はおそらく、人を屈服させることに悦を覚える性質だ。
同じことでも、睦美をこのような場所に呼び出しておきながら、無理やり彼女の貞操を犯すといった手立てに打って出なかったのは、それでは眼鏡の中での復讐を遂げたことにならないからだ。
睦美の異常性癖では、強姦にさえ快楽を覚えかねない。
そうでない手段で睦美を追い落とすなら、彼女の最も好きな場所で、女の命とも言うべき髪を切り、彼女の心を極限まですり減らす。
そうすれば、また男が恋しくなったとしても、今日のことを思い出さずにはいられまい。
そうやって彼女の永遠を奪うのだ。
まさしく、その捻じ曲がった性格を象徴している。
眼鏡は睦美に、できるだけ残酷に、強烈な映像をその目に焼きつけさせたいはずだ。
それならば。
「俺がもしここで消えれば、おまえはあのことを口外するのをやめてくれるか……?」