まだあなたが好きみたい
匡の打診に、睦美の双眸がひときわ大きく見開かれた。
恥も外聞もない呻き声を撒き散らしながら、必死の表情で身体を揺らす。
お願いわたしを見捨てないで。
その反応に愉悦して、眼鏡はにんまりと口の端を上げた。
「考えなくもないな。でも、外でおまえがここで見たことをばらさない保証はできないよ」
「誰に言えって言うんだよ、こんなこと。それに、仮に言ったとして、あいつはエースのくせに女を見殺しにしたらしいと、後ろ指を指されるのが落ちだろうが」
「ああ、それもそうか」
「ましてばれたら、エースの元恋人が実は淫乱だったって知れ渡るのも、俺の沽券に関わるからな」
匡は睦美に、嫌悪と軽蔑の入り混じった眼差しを注いだ。
睦美の眸にみるみる絶望が広がっていく。
じきに、眼鏡の斬新なカットにもろくな抵抗を示せなくなってくると、眼鏡はますます気をよくしたように、せっせとバリカンをあやつった。
「1年ちょっとじゃ人間そうは変わらないな。おまえはあいかわらず見かけ倒しの腰抜け野郎だ」
「何とでも言えよ。あの頃とは、背負ってるもののでかさも責任も桁ちがいなんだ。俺があいつらの足を引っ張るようなことは避けたいんだよ」
「女を見殺しにしてまでもか? 殊勝な心意気だな」
「見殺しにされて当然の女だろ。はじめからわかってたら、こんな場所に俺が来るかよ。知ってるか? 健全な高校生はラブホに出入りしちゃいけないんだぜ」
眼鏡はひとしきり可笑しそうに笑い、最後に下卑た微笑を口許に浮かべた。