まだあなたが好きみたい
カッターだ。
とっさに首をねじるも刃先が頬をかすめた。
舌打ちをする間に、立ちすくむ睦美の手首をはっしと掴む。
自らの側へ引き寄せる勢いにのせて、反対の手で分厚いタオルを眼鏡へと投げつけた。
不意を喰らって、眼鏡は掴んでいた睦美の頭を離した。
匡はその隙をついて睦美を廊下へと押し出す。
壁にぶつかるような音がしたけれど、確かめる暇はなかった。
眼鏡が掴むより一息分早く、バリカンを取り上げ、それも廊下へと投げ捨てる。
これで眼鏡はすべての武器を失った。
しかしさすがといったところが、丸腰ながらまるで怯んだ様子がない。
よっこらせとトイレの蓋に腰かけて、男は膝に肘をのせると、おもむろに笑い始めた。
「こんなことして、ただですむと思うのか」
「おまえだってただではすまないぞ」
「俺は言ったはずだ。地獄に堕ちるときは」
「一緒だろ。わかってるよ」
先回りした匡の声に、しかし先ほどまでのわかりやすすぎる狼狽は感じられない。
眼鏡は不思議そうに眉をひそめた。