まだあなたが好きみたい
菜々子は盛大に鐘を鳴らして境内を鳥居へと歩いた。
有正のことを案ずるあまり勉強に身が入らず、気を鎮めるべく、正月に来た神社で祈祷をしてみたところだ。
それでも胸は今もってそわそわと落ち着かない。
風邪でも引いたのだろうか。
とくにそれらしい症状はないのだけれど。
「吉田……ッ!」
……いや、やはり引いているのかもしれない。
今、どこかで窪川…らしい感じの声がした。幻聴が聞こえるのは危ないサインだ。
いよいよ荒れだした吹雪の中、屋内で練習中の彼の声がするわけない。
帰ろう。
そう思ったとき。
「吉田! ハァハァ……どうして帰ろうとするんだよ。いくらなんでも、無視はナシだろ」
出し抜けに肩をつかまれて、菜々子は石と化していた。
軋むように首をねじり、振り返ったすぐそこには、紛うことなき窪川その人が鼻先を真っ赤に染めて菜々子を見ていた。
「あなた、変態なの……?」
あまりの寒さに腕を組んだまま向きを変え、菜々子は顔を引きつらせた。