氷の卵
~カーテンコール~


あの日からちゃんと、啓に向き合ってきた。
思い出してくれたことが嬉しくて、思わず抱きついたりしたことが、今思うとちょっと恥ずかしいけれど。


そして今。
啓といつかみたいに向き合って紅茶を飲んでる。

マローブルーの紅茶。

私が一番初めに、啓に淹れてあげた紅茶。

でも啓はさっきからずっと、落ち着かない様子だ。


「雛、言ってもいいかな?」

「なに?」

「言うと雛、いつも泣くんだから。もう泣かない?」

「泣かない。」

「ほんとか?」

「泣かないよ!」

「じゃあ……雛。好きだよ。」


今までの告白とは違った。

啓はみどりさんじゃなくて、この私を愛してくれている。

そう実感できるから。


「啓。二番目でいいから。だから……、」

「え?」

「私は啓の二番目に好きな人でいいから。だからずっと、」

「雛は一番だよ。」

「だって。」

「二番なんてないよ。今この瞬間に、僕が想っている人が、僕の一番じゃなくて何なんだ。」


そんなこと言われたら。

つい。


「おい、泣かないって言っただろ!」

「ごめん、だって……。」


啓が私の顔を覗き込む。

なんだか恥ずかしくて、背を向けながら言った。


「啓が、好きなんだもん。」




香織さん。

私、香織さんの分も幸せになるね。

啓と、幸せになるね。




もう、一人じゃない。

一人じゃないから。





氷の卵はやっと溶け始めたから――













。**『氷の卵』Fin.**°
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