KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
ガタンッ!
彼女が掴んだままになっていた、空になった容器をテーブルに置くと、慌ただしく音をたててコートとバックを手にする。
そして彼女は、財布の中から1枚のカードを取り出すと、バンッと音をたててそれを、叩きつけるかのようにしてテーブルの上に置いた。
「これで良いんでしょ!?」
声をあらげて、正面に座ったままの男に向って吐き捨てるように言い放つ。
……え?まさかの修羅場続行ですか?
思いっきり巻き込まれて、明らかに被害者と化してる私を置き去りにしての展開に唖然とする。
「……あぁ」
一瞬、チラリッと私の方を見た男は、すぐに彼女へと視線を移し、ゆったりと口の端に笑みを浮かべて頷いた。
何処か王者然としたその笑みに、目を奪わせるだけの不思議な力があった。
全てを支配するかのような彼の迫力のあるオーラに、店内のあちこちで行きを飲む音がする。
私達を見ていた野次馬のような視線が、一気に色を変えた。
……まさに、カリスマって感じ。
仕事柄、カリスマモデルと呼ばれる人とも会う機会が多くて、派手めなオーラを持ってる人にはわりと慣れてるつもりだけど、彼は別格。
顔の作りの良さもさることながら、オーラが凄い。
迫力が有り過ぎて若干恐れすら感じる。
ふと、そんな事を考えていた時、不意に視界に可愛い顔を般若のように歪めた女性がいる事に気付いた。
そうだった。今は、彼の笑みの迫力にに感じ入っている場合ではなかった。
……というか、それ以前に彼が笑みを浮かべて良い場面でもなかったんだった。