KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



怒りをぶつけるように言った言葉に対して、笑みで返されてしまった哀れな女性は、目を吊り上げて、唇をわなわなと震わせている。

綺麗にラインの引かれた目には、僅かに涙すら浮かんでいた。



怒りに任せて攻撃的な言動をしてるのも、水を掛けるという暴挙に出たのも、彼女の方なのに、笑顔で軽く受け流している男の方が加害者に見えるのは何故だろう?


まぁ、実際の所はどうなのかわからないし、深入りする気はないから、今の私にはそんな事、どうでもいいんだけど。



それより、寒いし冷たいから、早くおしぼりかタオルが欲しい。

私にとってはそっちの方が重要だ。




「わ、悪いのは春斗なんだから、後の事は貴方が全部始末しておいて!!」

遂に爆発したかのように、大声で怒鳴ると、私に水を掛けた女性は、足音荒く、まるで逃げるかのように立ち去って行く。





……って、え?

ちょっと待って!!


一瞬、「お気の毒に……」なんて彼女に同情ながら見送ろうとしていた私は、ハッとして私の横をすり抜けて行こうとする彼女を見た。



彼女と私がすれ違う瞬間。

ほんの僅かだけ私を見た彼女は、一瞬目尻を下げ躊躇するような表情を見せたけれど、まるでそれを振り払うようにして、正面を向き直り、睨みつけるように前を見据えて、そのまま1度も振り返る事なく、喫茶店を出て行った。




……そう、出て行ってしまったのだ。


この状況かで。


自分が氷水をぶっ掛けた相手である、私を置き去りにして。




これって、絶対、おかしいよね?

せめて、一言位謝ろうよ、私に。
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