KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



「行っちゃったね」

「そうですね」


残された2人、何とも間の抜けたやり取りを交わす。

私の方は、気まずさ一杯なんだけど、相手の男の人の方は、何処か飄々とした感じ。

目の前であった状態に対して、それ程焦ってもいなければ、困ってもいないみたい。

それを頼もしいと思っていいのか、それとも他人事としてしかみていない不誠実さに不満を感じればいいのか、今の私には判断がつかなかった。




「お待たせしました。これをお使い下さい」

如何ともしがたい空気の中、居た堪れなさ一杯の私を救ったのも、またしても、あの店員さんだった。

きっと、ただのアルバイトのお兄さんなんだろうけど、今の私には救世主のようだ。


店員さんが床や私の座っていた席を濡らしている水を拭いてくれている間、私は自分の服や髪を拭い、何とか水滴が滴り落ちない程度にしていく。

私の後ろの席では、私程の被害はなかったにせよ、さすがに被害0という訳にはいかなかった彼が、自分の肩を濡らしていた水を拭っていた。


野次馬のように私達を見ていた視線が、片付け作業に移り始めると、飽きたかのように1つまた1つと減っていく。

そのお陰で、私自身も、頭が冷えて冷静に物事を考えられるようになってきた。




……まぁ、頭より体の方が必要以上冷えまくってるけどね。

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