KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
「彼女が悪かったね」
「……いえ、気にしないで下さい」
さすがに濡れた髪や服はそう簡単には乾かないけど、テーブルの周辺が片付いて、環境だけは元の状態に戻った所で、彼の方から私に話し掛けてきた。
謝ってくれた彼に、苦笑を浮かべながら首を振った。
例え発端は彼だとしても、如何にも「別れました」という雰囲気の彼に、私に水を掛けたまま何処かに消えてしまった彼女の責めを負わせるのも、何か妙な感じだ。
「服、濡れちゃったね。弁償させてもらうよ」
立ち上がって、こちらを振り返る彼に合わせて、私も立ち上がる。
改めて正面に立って見て、彼の容姿の淡麗さに驚いた。
私より頭1つ分は高いであろう高身長。
スラリとしていて、服の上からでも程良く筋肉がついている事がわかるしなやかな肉体。
若干癖のある鳶色の髪と、それと同色の涼やかな目元は、甘やかさの中にも凛とした雰囲気を醸し出している。
例えるならば、ハーレムに君臨する雄獅子。
思わずひれ伏したくなるようなそんなイメージだ。
……まぁ、さっきまでの修羅場を見ちゃっている以上、そう簡単にひれ伏そうなんて思わないけど。
ひれ伏したら最後、ハーレムの一員なんて生易しいものじゃなくて、餌の草食動物のように、バックリと容赦なく食べつくされてしまいそうだし。