KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
「いえ、結構です。服はその内乾きますから」
迫力系美丈夫のオーラに若干圧倒されつつ、笑みを浮かべて首を振った。
今日来ているのはお気に入りのニットワンピ。
好きだけど、高いから滅多に買えないブランドの服だけど、被ったのはただの水だから、多少風合いに影響は出ても、着れなくなるような事はない。
ここから家までどうやって帰るかっていう問題はあるけれど、服を弁償させる程の事ではない気がする。
「そういう訳にはいかない。君にはかなり迷惑を掛けちゃったしね」
私が遠慮した事で、困ったような笑みを浮かべる目の前の美丈夫。
その時、不意に目に入ったのは、彼が着ているセーターのロゴだった。
それは某有名ブランドの物。
良く見れば、彼の身につけているものはどれも品が良くて、一目見て高級品だとわかるものばかり。
きっと、結構なお金持ちなんだろう。
もちろん、だから「弁償する」って言ってるとかそういう訳ではなさそうだけど、もしかしたら、ここで変にごねるよりは、多少なりとも「弁償」してもらって、すっきりと全てを片づけてしまった方が、お互い気が楽なのかもしれない。
ふとにそんな事を考えたその時、視界の端にテーブルの上にポツンッと置きっ放しになっている、今日買ったばかりの本が映る。
さっきまで夢中になっていたそれは、まだ途中までしか読んでいないというのに、水浸しでもう読めそうにない。
いや、乾けば読むことは可能なんだろうけど、きっと私の着ている服と違って、元の状態に近い状態に戻ることはないだろう。