KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
だったら……
頭に浮かんだ名案。
私はまだしっかりと水分を含んだままのそれを手に取って、彼へと差し出した。
「なら、これを弁償して下さい。服は乾けば大丈夫ですけど、これは元通りにはならないので……」
さすがに服を弁償させるのは気が引ける。
彼が水を掛けた張本人じゃない分、余計に。
でも、この本位なら、まぁ、弁償してもらってもいいかって思える。
服と違ってそんなに高い物でもないしね。
「……本?」
彼が驚いたように、目を見開き、私の手から本を受け取った。
パラパラと……は開けないそれを、ゆっくりと丁寧な仕草で開いて行く。
いや、金額を確認してくれれば、中身は確認しなくても良いんですけどね。
ってか、私の容姿に不釣り合いな激甘系の恋愛小説なんで、むしろ確認されると気恥しいものがあるからやめて欲しい。
まぁ、その事を口にして止めに入れば、余計に興味を持たれそうだから敢えて言わないけど。
「ふ~ん、シンデレラストーリーねぇ」
彼が私を本越しにチラッと見る。
ええ、似合いませんとも。
見た目的にも、年齢的にもね!!
別に批判的な事を言われた訳でもないのに、日頃そういう事を言われ慣れてる私は、どうしても被害的に物事を感じてしまう。
彼はそんな私を見て、口元に緩やかな弧を描きつつ、自分が座っていた席のテーブルに浅く腰かけた。