KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



カランッ。


彼の動作に合わせて、何かが小さな物音を立てて床に落ちた。

私は咄嗟にその落ちた物を視線で追う。


それは銀色のカードだった。



……そういえば、さっきの女の人、さり際に何かカードのような物を机に叩きつけて行ったっけ?

激怒した彼女が、バンッと机を叩くようにしてそれを置いて行った光景を思い出す。


チラッと見た彼は、私の差し出した本を見ていて、カードが落ちた事にすら気付いていないようだ。


仕方ない。


上体を折って、彼の足下に転がっているカードを拾う。

そんな私の行動を見て、やっと彼は床に落ちたそれの存在に気付いたよう、こっちを見てくる。



「はい。これ落ちましたよ」

上体を起こしてすぐに目があった彼に、スッと銀色のカードを差し出す。

一面ただの銀一色のカードかと思っていたそれは、良く見ると小さな凹凸があり、表面に材質の違いを使って絵が描いてあった。



これは……トランプ?

そこに描かれていたのは、紛うことなきトランプのハートのクイーンの絵柄。

なんか、凄くお洒落な感じはするけど、一体何に使うカードだろう?


どう見ても、金融関係のカードには見えないそれに、内心首を傾げる。



気になるけど……訊けないよね。
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