KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―


男が私の声に反応して、本から視線を上げた。

彼の目が私が差し出したカードを捉え、僅かに細められる。




「あぁ……」

そう呟くと、無言でそのカードを見つめ、何か思案しているような素振りを見せた。



……どうでもいいけど、さっさとカードを受け取って欲しい。

差し出した物をいつまでも受け取ってもらえないと、私が一方的に何かを押しつけているかのように見えてしまうじゃないか。




「……あの?」

動こうとしない彼に、痺れを切らして、促すように声を掛け、小さく首を傾げた。


彼の目がカードから私の顔へ、そして、手元の本へと順に動いて行ったかと思うと、不意に、彼の口の端が引き上げられ、奇麗な弧を描く。

愛想笑いのような笑みとは何処か違う。


強いて言うなら、何か面白い玩具を見つけた顔というのが一番近いだろう。


正直、そこからは嫌な予感しか感じられない。



「それは、君にあげるよ」

「は?」


私の方へと伸びた手が、カードではなく、私の手の甲に触れ、軽く押し返すように動く。

その動きに流されるように、自分の方へ手を引き寄せた。


差し出したはずの手が、自分の顔の前辺りへと戻ってくる。



今、これを私にくれるって言ったよね?

何でそうなった?


ってか、それ以前に、これは何のカードですか!?
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