KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
「ははは……。シンデレラは本の中だけで十分なんで」
「いや、これは俺からのお詫びだから」
いやいやいや!
お詫びってのは、強制的に押し付けるものじゃないから!!
「そうだな、まずは……」
男が私の全身を、ゆっくりと上から下まで眺めていく。
「どう考えても着替えだな。このままだと、俺も君も風邪を引く」
ニッと、いたずらっ子っぽく笑った彼に、一瞬見いってしまう。
……それがいけなかった。
「そうと決まれば、行こうか?」
「え?」
私が返事し遅れた、ほんの一瞬の間を、了解と取ったのか、はたまた、始めから私の意見など聞く気がなかったのか。
男は素早く私の手首をつかみ、椅子に置いてあった私のコートとバックを掴むとスタスタと歩き始める。
「ちょ、ちょっと待って下さ」
「ちょっと待ってて、お会計済ませるから」
「あ、はい」
レジの前に差し掛かり、彼が邱に立ち止まり、私に2枚の伝票を見せる。
あ、私も分の伝票も持ってきてくれたんだ。
私も払わなくちゃ。
「あの、お会計、私も……」
「今日は全部俺の奢り。これはお詫びの気持ちとちょっとの下心だから、遠慮なく受け取っておいて?」
「す、すみません。有難うござ……ん?あれ?」
何か、いつの間にか私、彼のペースに流されてません?
ってか、お詫びはともかく、下心って何!?
それに、今、さり気なく、『今日は』全部奢りって言ってなかった?
『ここは』奢りって言うならわかるけど、『今日は』って何!?
これからも、何か奢られるわけ!?
余計なサービスは本当にいらないんで、本だけ弁償して今回の事はチャラにさせて下さい。
強引なセールスお断り。
……切実に。