KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
そんなこんなで、甘い夢の世界に浸りつつ、甘くて美味しいケーキと、香り高い紅茶に癒されるべく向かったお気に入りの喫茶店。
雰囲気も良くて、紅茶もケーキも美味しいそこは、ちょっと値段は高めだけど、時々「自分へのご褒美」なんて言い訳をしながら利用している場所。
今日みたいに、1人でゆったりとした時間を楽しみたい時でも、気兼ねなく立ち寄れる雰囲気と席配置なのが本当に有難い。
指導が行き届いた店員さんに案内された席に着き、ケーキと紅茶を手早く注文し、買ったばっかりの本を広げて、今日会った嫌な事を幸せな時間で上塗りする。
脳の中にこびりついている、元憧れの人のニヤついた嫌な顔を、自分の空想の中の王子象で塗りつぶしていく作業は、思いの他難しかったけれど、ケーキを食べ終わる頃には、読み進めていた物語も良い場面まで進んでいた事もあって、大分意識の中で薄れてくれた。
そして、その事にホッとして、「きっと今日はこれ以上嫌な事は起こらないだろう」なんて思っていた所に、事件は起きた。
後ろのカップルの口論。
次第にヒートアップしていくそれは、すぐに修羅場と化す。
煩いし、気にはなったけど、実害があるなんてほんの少しも考えていなかった。
迷惑だと思う事はあっても、所詮は他人事だから、それで私が困ることになるはずがないって思ってた。
なのに……
バシャッ!!
派手な水音と同時に突然上半身を襲う、大量の氷水。
強制的にさせられた、真冬の水浴び。
茫然としつつ思った。
『今日は絶対厄日だ』と。