私たち、政略結婚しています。




***

「こちらの春物の巻頭には、有名なプロのモデルではなく、一般の方の中から募集をかけてみたいと思っています。リアリティーをより引き出すためです」

企画会議で前に出て堂々と話す彼をじっと見つめる。

私と、克哉と、他三名で組まされた今回のチームは、彼にとってはあまり好ましくはないメンバーだろうと思う。
克哉以外の四人は、企画チームに初抜擢で右も左も分からないからだ。

私たちが勤めるこの『ファッションスタイルサンクチュアリ』は国内では中堅どころの通販会社だ。
私たちが所属する企画四部では主にメンズものの被服や小物を取り扱っている。

今回はカタログの次回号の巻頭企画を目指して小チームが五つ組まれている。

「…ねえ…、浅尾先輩。伊藤さん…、いいですよね」

隣に座っていた留美子ちゃんがこそこそと話しかけてくる。
彼女も今回のメンバーの一員だ。

「…何がよ」

私は克哉から目を逸らさないままで答える。

「全部ですよ~…。あんな人に抱かれてみたいですよね〜。ベッドでどんな風に囁くのかしら〜…。きゃっ」

全く。話も聞かないで何を考えているのか。私は呆れながら彼女に返事をする気にもなれずに黙っていた。

「あ、浅尾先輩は興味ないんでしたね。いつも喧嘩してるもの。伊藤さんの前で女を捨てていますしねー」

…何よ。可愛くなくて悪かったわね。

私は彼女を無視したまま克哉の話を聞いていた。



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