負け犬も歩けば愛をつかむ。
「おはよう。大丈夫だよ、シャツ着てるから。入って」

「あ……は、はい、すみません!」



ほ、ほんとだ……。よかった、ワイシャツの下が魅惑の裸体じゃなくて。

でも黒いVネックのTシャツを着た彼も、レアな姿でちょっぴり胸が高鳴るんですけど。

なんてうつつを抜かしていると、その上から椎名さん用に用意しておいたコックコートを羽織り、彼はいつもの穏やかな笑みをこぼす。



「その様子だと、具合良くなったみたいだな?」

「はい! おかげさまで、だいぶ良くなりました」

「それはよかった。……けど、やっぱり俺の言うこと聞かなかったか」

「……あ」



意地悪っぽく口角を上げる彼に、私はギクリとする。



「まぁ、そう思ったから俺も早く来たんだけど」

「す、すみません! でも、どうしてもやらなきゃいけないことがあって……!」

「それはこのこと?」



そう言って、彼が私の目の前にひらりと掲げた一枚の紙。

そこに記されているものを見た瞬間、目が点になった。



「えっ……何で……!?」

「期限、今日までだったんだろ」



彼が手にしているものは、今まさに私がやろうとしていた請求書。

すでにすべての品名や金額が入力されている。

うそ……これ、椎名さんが!?



「どうして……!?」



椎名さんは何も知らないはずなのに……!

信じられない気持ちで彼を見上げると、形の良い唇が緩やかに弧を描いた。

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