負け犬も歩けば愛をつかむ。
「昨日、デスクの上にノートと伝票を置いたまま帰っただろ? 何の仕事してたんだろうと思ってパソコン立ち上げたら、請求書のフォーマットが出てきたから、あぁこれだなって」

「それで、代わりにやってくれたんですか……?」

「あぁ。君があんなに無理してやってたくらいだから、きっと締切は今日までなんだろうと思って」



もう……まただ。また私は椎名さんに助けられてしまった。

どうして、私のことをいつも救ってくれるの?

じわりと熱いモノが目に込み上げる。



「大変なのに……」

「ノート見たらわかりやすく纏まってたから、俺はその通りに金額を入れただけだよ」

「それでも、時間掛かるし……!」



あんなに遅い時間から始めたんだ。いったい終わったのは何時だったんだろう。

しかも、今も早くから来てくれて……全然休めてないじゃない。



「……椎名さんが全部やるつもりでいたから、今日は早く来なくていいって言ったんですか?」

「ん、気を遣わせるかと思って黙ってたけど、ちゃんと言っといた方がよかったかもな」



頭を掻いて苦笑する椎名さん。

あなたはいい人過ぎる。そんなに優しくしないでよ……。

迷惑かけっぱなしの、こんな私のために。



「……何で泣くの」



彼の長い指がそっと目尻に触れる。

目に溜まって一杯になった涙は、堪えきれずに溢れていた。

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