負け犬も歩けば愛をつかむ。
「請求書は忘れてた私のミスで、私がいけないんですよ? しかもそれを黙ってようとしたのに、助けてくれるなんて……」



私は本当にダメな部下だ。上司に余計な仕事を増やしてしまったのだから。

以前九条さんは私のことを、『能力を買われたわけでもなく、ただの異動でチーフになった』と言った。

あの時は苛立ったけれど、今はそう言われて当然のような気がする。



「自分が情けなくて嫌になります。私は何も出来てない。椎名さんのために、何も……」



椎名さんは私の代わりに専務と交渉してくれたり、私の身体を心配して、自分の仕事じゃないことまでやってくれたのに。

部下として出来る限りのことをして、彼を支えたいと思っていたのに、私は何をやっているんだろう。



「千鶴」



泣いたら椎名さんを困らせるだけだと、唇を噛み締めてなんとか涙を止めようとする私の顔を覗き込み、彼が優しく名前を呼んだ。



「俺は君に何かしてほしくて仕事してるわけじゃない。だから、そんなこと気にしなくていいんだよ。部下を助けるのも当然のことだし」

「っ、でも──」

「それに、黙ってたのは自分でなんとかしようとしてたからだろ? 実際、昨日あんなになるまでやってたじゃないか」

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