負け犬も歩けば愛をつかむ。
私の頭を、大きな手が包み込むように撫でる。

そして少し上を向かせると、薄茶色の瞳に私をしっかりと映し、優しく、けれど力強さもある声色で言った。



「君が頑張ってること、俺はちゃんとわかってるから。そんなに自分を卑下するな」



その一言で涙腺が一気に緩み、熱い雫がさらに量を増して頬を伝った。


必死になって勉強したのに、テストでいい点が取れなくて。それでも、結果は関係なく努力を認めてもらえた時のような気分。

こんな気持ちになったのは、大人になって初めてかもしれない。

三十の女がこんなことで泣いてるなんて本当に呆れるけど、椎名さんの前ではどうしてか子供みたいになっちゃうのよ。


両手で私の頬を包み込み、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を親指で拭いながら、椎名さんは表情と声を少し引き締める。



「でも、期限を忘れてたことは気をつけなきゃいけないよ。それと間に合わなさそうな時は、一人で悩んだりしないでちゃんと相談すること」

「……はい。本当にすみませんでした」



あぁ、なんだか今度は恥ずかしくなってきた。

泣くわ叱られるわ、本当に大人の女と思えない……。私は顔だけじゃなくて中身も幼いってことが、今回のことでよーくわかったわ。

バッグからティッシュを取り出し、さっきとは別の意味で情けなさを感じていると。



「まぁ、俺に言えなかった理由は他にもあるんだろうけど」



という椎名さんの言葉が、すっぴん顔を躊躇いなく拭く私の手を止めさせた。

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