負け犬も歩けば愛をつかむ。
「例の小雪って子のことも、何かの間違いかもしれないわよ。もうこの際はっきり聞いてみたらいいじゃないの」

「……そうですね」



園枝さんの言う通り、いつまでもウジウジ悩んでいないで、本人の口からしっかり聞き出そう。

そろそろ私の片想いにけじめをつける、いい潮時なのかもしれない。



「……よーし。パーティーが成功したら、この恋に決着つけます!」



ぐっと手を握りしめて意思表明すると、皆は「頑張れ」とエールを送ってくれた。

今日の一大イベントが成功したら、無くしかけていた自信も取り戻せそうな気がするの。

そうしたらきっと、自分の想いも伝える勇気も持てるはず。


三十路にして、初めて好きな人に告白した中学時代に戻ったような気分を味わいつつ、私もコックコートに身を包んだ。



けれど、本格的にパーティーの準備に取り掛かる前に、私は専務のもとへ請求書を渡しにいかなければならない。

『金額が間違ってないかしっかり確認しておいて』と椎名さんに言われた通り、何度も細かい部分を見直した。

椎名さんにひたすら感謝しながらミスがないことを確認すると、専務も出勤したであろう八時過ぎに、それを持って専務室へと向かった。

そして、部屋のドアをノックしようとした瞬間。



「薫ぅ~……」



甘えたような、けれど泣いている女性の声が聞こえて、私はグーにした手をそのままに固まった。

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