負け犬も歩けば愛をつかむ。
この声にこの名前の呼び方、九条さんよね?

いけないと思いながらも好奇心の方が勝り、私はそっとドアを開いてみた。


その隙間から中を覗くと、九条さんはデスクの前に立つ専務の胸に顔を埋めている。専務は面倒臭そうな顔をしながらも、彼女の頭をそっと撫でた。

二人の親密な姿に、なんだか見てはいけないモノを見てしまったようなドキドキ感に襲われ、私の目は釘付けになる。

この二人、やっぱりただの仕事仲間じゃないわよね!?



「……お前はいつまで泣いてるんだ。昨日もフラれたくらいで会社休むなよ」

「だって、この私がフラれるなんてぇ~!」



高飛車発言をする九条さんに内心苦笑い。えーんと泣く彼女は私より子供みたいだ。

専務は心底呆れたというような様子で、こんな言葉を吐いた。



「せっかくお前のために、椎名さんに邪魔者が近付けないようにしてやったのに、何やってんだか」



え……邪魔者って、もしかして私?

てことは、専務は九条さんの恋のために、私を椎名さんから遠ざけようとしてたってこと?

私と同じく眉根を寄せた九条さんは、泣き顔を上げて専務を睨む。



「私はそんなことしてほしいだなんて一言も言ってない」

「でも春井さんを邪魔に思ってたことは認めるだろ?」

「そうだけど……でもそんなのフェアじゃないわ」

「カッコつけるなよ。どっちにしろ結局お前は負けたんだから」

「何よー! 薫のイジワル!」

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