負け犬も歩けば愛をつかむ。
九条さんは彼の気持ちに気付いていたからケロッとしていられるんだろうけど、こっちは少なからず衝撃的だ。

だってあの専務が、好きな人のために自分の気持ちは押し止めて、そんな健気な(?)ことをしていたなんて……に、似合わない。



「じゃあ……九条さんは、その気持ちに応えてあげられないの?」

「無理ですよ、あんな捻くれまくってる腹黒男。あの人の思考は理解に苦しむし」



うーわ、やっぱり彼女もダメならバッサリ切り捨てるのね。



「……と、思ってたんですけど」



あら?

救いがありそうな言葉を続けた九条さんを見やると、ほんの少し優しく、切なげな表情に変わっていた。



「椎名さんにフラれて、初めて失恋の辛さを味わったら、少しわかったことがあるんです。もし薫が私のことを本当に好きだとしたら、私に好きな人が出来るたびにこんな思いをしてきたのか……って」



九条さん、本当に失恋したことなかったのね。

でも今、伏し目がちな彼女の瞳には、椎名さんではなく専務を映しているように思える。



「それなのに、薫は私の恋の手助けばかりしてて。そんなに深く想ってくれる人、たぶん他にはいないと思うんです。だからこれからは、薫ともっとちゃんと向き合おうって思いました」



そこでちゃんと目を合わせてくれた彼女にはもう涙はなく、今までで一番と言っていいくらい、とても美しい表情をしていた。

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