君想い【完】
大声を出そうとしたさりちゃんの口を急いで塞いだ。
口元に人差し指を置くと、手を合わせてさりちゃんが頭を下げた。
「あの子、榎本のこと好きだったんだね。」
「うん。だから何かとさりちゃんに突っかかって来たんじゃない?同じクラスだし。」
「そうかも。学校で一番可愛いって言われてる子だし、付き合うんじゃない?」
極力ボリュームを下げ、話した。
さりちゃんの目が輝いていた。ほしいおもちゃを見る子どもみたい。
でも僕もすごく心臓が高鳴って、展開を楽しんでいた。
まるでドラマの撮影を生で見ている気分だ。
「ごめん。好きな子いる。」
また大声を出そうとした口を封じた。さっきと同じ繰り返しで、またさりちゃんが謝っていた。
可愛い顔から大粒の涙を流し、ゆかりちゃんは走って行ってしまった。
目から溢れ出す涙を見て、少し面白がって見ていた僕たちは息を飲んだ。
「何してんの?」
「うわ!トシ!あ、その…」
2人で声を揃えて慌てていると、榎本祥吾が僕たちに気が付いてしまった。
すこし俯いて白い歯を見せ、
「俺、先帰るね!」
と言ってバス乗り場まで走って行ってしまった。