君想い【完】

大声を出そうとしたさりちゃんの口を急いで塞いだ。

口元に人差し指を置くと、手を合わせてさりちゃんが頭を下げた。

「あの子、榎本のこと好きだったんだね。」

「うん。だから何かとさりちゃんに突っかかって来たんじゃない?同じクラスだし。」

「そうかも。学校で一番可愛いって言われてる子だし、付き合うんじゃない?」

極力ボリュームを下げ、話した。
さりちゃんの目が輝いていた。ほしいおもちゃを見る子どもみたい。

でも僕もすごく心臓が高鳴って、展開を楽しんでいた。
まるでドラマの撮影を生で見ている気分だ。






「ごめん。好きな子いる。」



また大声を出そうとした口を封じた。さっきと同じ繰り返しで、またさりちゃんが謝っていた。


可愛い顔から大粒の涙を流し、ゆかりちゃんは走って行ってしまった。
目から溢れ出す涙を見て、少し面白がって見ていた僕たちは息を飲んだ。



「何してんの?」


「うわ!トシ!あ、その…」

2人で声を揃えて慌てていると、榎本祥吾が僕たちに気が付いてしまった。

すこし俯いて白い歯を見せ、
「俺、先帰るね!」
と言ってバス乗り場まで走って行ってしまった。


< 73 / 403 >

この作品をシェア

pagetop