雪恋ふ花 -Snow Drop-

レストハウスに入ると、とたんに彼女の表情が和らいだ。
リフト乗り場が見える窓側の席に座らせて、飲み物を買いに行く。

ホットココアを彼女の前に置くと、うれしそうに微笑んだ。


「そう言えば、名前聞いてなかったな」

「いぬぶちたま」

春人の頭の中で変換されたのは、こんな文字列だった。


"犬・ブチ・タマ"


春人は悪いと思いつつ、笑いを押し殺せなかった。


「いいですよ、笑っても。それも慣れてますから。ついでに名前の由来は、父がそろばんの教師だからです」

彼女がふくれて言う。


「珠算の"珠(しゅ)"で、珠(たま)か」

漢字を聞いて納得した。


「せめて、”コ”か”ミ”をつけてくれたら、良かったのに」

「どういうこと?」

「”珠子”か”珠実”だったら、どんなにましだったかって、小さい頃からずっと考えてました」

「なるほどね」

「小学生の頃から、どれほどばかにされたことか。あだ名は、ブチかタマ決定ですよ」

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