雪恋ふ花 -Snow Drop-

見覚えのある宿の前に着いて、確かにここに間違いないと、珠は安堵のため息をついた。


「ただいま〜」


玄関の引き戸を開けた春人の思いがけない一言に珠は驚いた。

「えっ?」

「俺も、この宿なんだ」

「ええっっ」

「ちなみに、ここ、俺の定宿」


珠は思わぬ偶然にくすくすと笑い出した。

「こんなことって、あるんですね」

「ああ、あるんだな」


乾燥室に板を置き、春人が戻ると、スキーブーツがなかなか脱げなくて、珠が真っ赤な顔をして格闘している。

「おまえ、ほんとにどじだな」

春人が笑いながらスキーブーツをぐっとおさえてくれて、やっと足を抜くことができた。
勢い余って後ろにひっくり返ると、半分あきれ顔の春人が黙って手をのばす。
珠は照れながら、その手を握り、体を起こした。
情けない姿ばかり見られている。


フロントから、宿の人と親しげに会話を交わす春人の声が聞こえてきた。

「まだ、帰ってないらしいよ。おまえの連れ」

「そうですか……」

< 28 / 181 >

この作品をシェア

pagetop