雪恋ふ花 -Snow Drop-
スクールは同じレベルの初級者がおらず、マンツーマンレッスンになった。
さすがはプロ、コースを滑りながら、カーブのコツや力の入れ方を教えてもらう。
「あの、パラレルまでどのくらいかかるでしょうか」
「そうだね。あと数回はかかるかな」
珠はそっとため息をついた。
インストラクターは年配の男性で、とても話しやすい人だった。
リフトに乗っている間は楽しく世間話をした。
2時間の講習を終えて、隣山の麓に建つカフェでインストラクターと別れる。
休憩時間は1時間半。
ゲレンデ内で本格的なピザが食べられると人気の店で、珠はリフト乗り場が見える窓際に面したカウンター席に座った。
しばらくして、何人かの客が入ってきた。
隣に人が座ったので、ふと顔を上げると、春人だった。
「あ」
「春さん」
「もしかして、また一人?」
春人の表情が曇る。
「あ、違うんです。今日は一人でスクールに入ってるの。早くちゃんと滑れるようになりたくて」
「ふーん」
「パラレルが滑れるようになったら、一緒に滑ってくれるって、賢ちゃんが言うから……」
「へえ」
暗い空気を押しやるように、珠が明るい声で言った。
「春さんは、いっぱい滑れた?」
「ああ。天気もいいし、気持ちよく滑れたよ」
先に運ばれてきたピザを珠が差し出す。
「1つ食べません?」
「いや、いいよ」
「ここのピザ、すごくおいしいって、インストラクターに教えてもらって。私、きっと全部食べ切れないから、どうぞ」
人なつっこい珠に、春人はいつもの自分のペースが崩れていく気がしていた。
昨日から変だ。
こんなふうに、初対面の女性と親しげに会話したりするのは苦手だったのに……。
そうこうしているうちに、春人の焼きカレーが来た。
「わぁ。それもおいしそう。ここも春さんのお気に入りのお店?」
「まあな。これ、食ってみる?」
春人はそんなことを思わず口にした自分に驚いていた。
「いいの?」
珠は、無邪気に目を輝かせて、パクリと一口ほおばった。
「はふ、熱い、でも、おいしい」
本当に幸せそうに微笑むから、春人もつい頬がゆるんだ。
「おい、口についてるぞ」
「え?」
珠の口の横についてるカレーを笑いながら、ナプキンでぬぐおうとした時、珠がパッと立ち上がる。
「賢ちゃん……」
「また、そいつと一緒かよ」
不機嫌な声がふってきた。
「ちがうよ。たまたまここで会っただけだよ」
「なんで、隣に座ってんだよ」