雪恋ふ花 -Snow Drop-
「ここしか空いてなかったからですけど。でも、あっち空いたみたいだから、ここどうぞ」
そう言って、春人がトレイを持って席を譲る。
珠は二人のやりとりを心配そうに見守っていた。
さっきまでの楽しい雰囲気は消えて、緊迫した空気が流れていた。
「賢ちゃん、何食べる?」
「おまえさ、どういうつもりなの? リゾート地でアバンチュールでもする気か?」
「そんなんじゃ……」
「どうせ、約束してたんだろ。お昼に会おうって」
「どうやって? 連絡先も知らないのに?」
「朝、宿の玄関でしゃべってただろ?」
「あれは、おはようって言っただけだよ」
「どうだかな」
自分を放り出したことは棚に上げて、賢の追及はエスカレートするばかりだ。
こういう時は反論せずに黙っておくのが一番いいと、珠は過去の経験から知っていた。