雪恋ふ花 -Snow Drop-
バス停までの道を、重いスキーバッグを引っ張りながら歩いていると、ずっと堪えていた涙が、珠の頬を伝った。
賢ちゃんとは、もうだめかも。
なんで、こんなことになちゃったんだろう……。
スキーシーズンに公共交通機関を利用する客はおらず、バス停には誰もいなかった。
本当にバスは来るんだろうか、もしも来なかったら……。
そんなことを考えると寒さと不安で体がガタガタと震えだす。
日も暮れてきて、あたりも暗くなり始めている。
賢の車はさっき目の前を通過したばかり。
助手席にバッチリメイクのきれいな女の子を乗せて。
プップッー。
クラクションの音に顔を上げると、目の前に春人の車が止まっていた。
助手席の窓を開けると、春人が言った。
「ここで、なにしてる?」
「あ、えっと……」
珠は慌てて涙をぬぐって、立ち上がる。
「友達と待ち合わせ?」
「バス、待ってるの……」
珠の様子がおかしいことに気づいて、
春人がシートベルトをはずして、車から降りてきた。
「まさか、一人で帰るとか言わないよな? 連れはどうした?」
「えっと……あの、私だけ早く帰らなくちゃいけなくなって、それで一人で、バス……」
そこまで聞いて、春人は珠の言葉をさえぎった。
「とにかく乗って」
「いえ、だいじょうぶです。もうすぐ、バス来るし」
珠はこの期におよんでなお、遠慮している。
「いいから、乗って。駅まで送るから。このまま雪の中に立ってると、雪だるまになるぞ」
春人が半ば強引に腕をつかんで、珠を助手席に座らせると、有無を言わせず荷物をトランクに詰め込んだ。
「家、どこ?」
「お、大阪」
「まじかよ?」
「え……?」
珠は春人の顔を見上げた。
「市内ならともかく、そんな遠方まで」
春人の声はどんどん低音になっていく。
「あの、ほんとに私一人で帰れますから。あと5分くらいで、バスも来るし……」
「また、迷子になりたいのか?」
切りつけるように鋭い声で言われて、珠が息をのんだ。
「っ……」
不機嫌な表情で春人は車を発進させる。
「春さんはどこまでですか?」
「おんなじ」
「え?」
「俺も大阪。だから、家まで送ってやるよ」
「でも、そんな、悪いから……」
慌てて断ろうとする珠を、春人がじっと見つめる。
「また彼氏に怒られるからか?」
春人の視線がつきささる。
「いや、そうじゃなくて、春さんに迷惑かけたくないから」
「だったら、ガソリン代と高速代、割り勘にしよう。そしたら、俺も助かる」
「ありがとう……」
春人はいつも珠の心を軽くするすべを心得ている。
お金に困っているわけではないことは百も承知だが、それでもこんなふうに言ってくれる春人の優しさに、珠は甘えようと思った。