雪恋ふ花 -Snow Drop-

ぎこちない沈黙を破るように、春人がFMのスイッチを入れる。
心地よいヒーリングミュージックが車内に流れ始めた。

「なんか、しゃべれ」

「え?」

「大阪までしゃべり続けるのが、おまえの任務。黙ってると、眠気が襲ってくる」

「私……免許なくて、運転変われないんですけど……」

「心配するな。俺はいつも一人で来てるの。運転させる気なんてないから」

「すみません……」

「それと、これから敬語禁止な。堅苦しいの苦手なんだわ」

「うん、わかった。今日はどこ滑ったの?」

「今日はほぼ全コース滑ったよ。雪質も最高だったしな」

「へえ」

「おまえは少しは上達したのか?」

「うん。暴走しなくなった」


春人がプッと吹き出す。

「パラレルって、どうやったらできるようになるのかな」

「まあ、そのうち、自然に? 気づいたら、足閉じてたけどな」

「パラレル滑れるようになったら、一緒に滑ってくれるって言うの、賢ちゃんが」


こんな目にあっても、賢ちゃんかと春人はげんなりした。

「まあ、頑張れば? 目標あると、上達も早いんじゃねぇ?」

「だったらいいんだけど。あの宿にはどのくらい、泊まってるの」

「そうだな、小学生の頃からだから、もう20年近くになるかな」

「常連さんなんだね」

「まあな。あそこは料理がうまいから、気に入ってるんだ」

「ほんとにおいしかった。よくあんな値段でできるよね。おもてなしの心を感じた」

「そうそう。クラシックで朝食ってのもいいしな。今度また行く機会があったら、蔵でコーヒー飲んでみて。ほんとにうまいから」

「蔵で?」

「そう、観光雑誌にも載る、けっこう有名な喫茶店なんだ」


二人はとりとめない会話を続けた。

< 40 / 146 >

この作品をシェア

pagetop