雪恋ふ花 -Snow Drop-
ぎこちない沈黙を破るように、春人がFMのスイッチを入れる。
心地よいヒーリングミュージックが車内に流れ始めた。
「なんか、しゃべれ」
「え?」
「大阪までしゃべり続けるのが、おまえの任務。黙ってると、眠気が襲ってくる」
「私……免許なくて、運転変われないんですけど……」
「心配するな。俺はいつも一人で来てるの。運転させる気なんてないから」
「すみません……」
「それと、これから敬語禁止な。堅苦しいの苦手なんだわ」
「うん、わかった。今日はどこ滑ったの?」
「今日はほぼ全コース滑ったよ。雪質も最高だったしな」
「へえ」
「おまえは少しは上達したのか?」
「うん。暴走しなくなった」
春人がプッと吹き出す。
「パラレルって、どうやったらできるようになるのかな」
「まあ、そのうち、自然に? 気づいたら、足閉じてたけどな」
「パラレル滑れるようになったら、一緒に滑ってくれるって言うの、賢ちゃんが」
こんな目にあっても、賢ちゃんかと春人はげんなりした。
「まあ、頑張れば? 目標あると、上達も早いんじゃねぇ?」
「だったらいいんだけど。あの宿にはどのくらい、泊まってるの」
「そうだな、小学生の頃からだから、もう20年近くになるかな」
「常連さんなんだね」
「まあな。あそこは料理がうまいから、気に入ってるんだ」
「ほんとにおいしかった。よくあんな値段でできるよね。おもてなしの心を感じた」
「そうそう。クラシックで朝食ってのもいいしな。今度また行く機会があったら、蔵でコーヒー飲んでみて。ほんとにうまいから」
「蔵で?」
「そう、観光雑誌にも載る、けっこう有名な喫茶店なんだ」
二人はとりとめない会話を続けた。