雪恋ふ花 -Snow Drop-
市の中心部からバスで1時間ほど走ると、人工スキー場に到着した。
珠も小さい頃に家族と一度来たことがあったが、ずいぶん長い間来ていなかった。
今日は土曜日とあって、家族連れでにぎわっていた。
よちよち歩きの赤ちゃんまでいる。
さっそくウェアに着替えて、板をレンタルする。
春人はあっという間に、板を履いてしまう。
初めて会った時も思ったが、街中で見るのとスキー場の春人は全く別人だった。
ふだんはどちらかと言えば目立たない感じなのに、ウェアを着ると見違えるほど颯爽としている。
スキーの技術も相当なもので、滑り出すと女の子達が羨望のまなざしで見ていることに、珠も気づいていた。
そして、興味津々の目で二人の関係性を探ろうとする。
その度に珠はいたたまれなくなって、自分なんかが隣にいていいものかとため息をつきたくなる。
「どうかした?」
いつもと変わらない優しい声で聞かれて、珠は首をふる。
「さて、今日も楽しく滑ろうな」
「うん」
珠の上達が遅々として進まなくても、春人は決して嫌な顔をせず、つきあってくれる。
どうしてだろうと珠が考えた時、あまりうれしくない結論に結びついた。
『春さんは私のこと、子どもだと思ってるんだ。だから、無条件に優しくできるし、腹も立てないんだ』
珠は胸の奥がきゅっとしめつけられるような気がした。