風の放浪者
「わたくしは、苦手です」
「誰だって、あの人物は苦手となるよ。あの人物を得意とする人間や精霊がいたら、会ってみたい」
「主、でしたら我が……」
なかなか受け入れないフリムカーシの代わりにレスタが行こうと申し出てくれるが、ユーリッドは頭を振る。
レスタはエリックの性格を知らないし、もし知ったらただでは済まない。
あのような人物であったとしても、氷漬けにされたら目覚めが悪い。
寧ろ、祟られてしまう。
また運良く生き残っても、生きとし生けるもの全てに影響を与える歌を歌いはじめる。
「レスタには、他にもやってもらうことがある。修道院の様子を調べてきてほしい。聖職者達の反応が気になる」
命令を受けたレスタは胸元に手を当て一礼すると、空間に溶け込むように消える。
そしてその場に残った精霊は、フリムカーシ。
つまり、必然的にエリックのもとに行くことが決定する。
「ご、御免なさい」
嫌がるフリムカーシの姿に、エリザは頭を下げる。
自分がこのようなことを言わなければと思うが、腹の音は鳴り続ける。
口から食物を摂取するという行為を行わない精霊にとって、腹が空くということはわからない。
人間という面倒な生き物に、フリムカーシは顔を引き攣らせていた。
「僕も、何か食べたい」
見兼ねたユーリッドが、横から言葉を掛ける。
その満面の笑みにフリムカーシは全身を硬直させる別の意味で身体を震わせていると、急にユーリッドを抱き締め顔を摺り寄せはじめた。
「やはり、最高です」
「い、息が……」
抱き締めることに愛情を覚えたのか、三本の尾が緩やかに動く。
一方今まで崇め奉る対象である精霊の意外な一面に、エリザは言葉を失う。
精霊は偉大な存在――しかし、これを見るとその概念が崩れ去る。
「マスターが、そのように仰るなら」
「その前に、離してくれ」
「し、失礼しました」
厳しい口調にフリムカーシはこれ以上の「おいた」は無理と本能的に判断したのか渋々ユーリッドを放すと、エリックのもとへ行くことを承諾する。
どのような状況であれ、主人の命令は第一に遂行しないといけない。
よって、エリックに脅し――もとい、頼みに行くのだった。