風の放浪者
「それでは、闇討ちを――」
「それはいいかもしれない」
「では、お望みのままに」
「考えておく」
目の前で不可思議な踊りを演じているエリックに冷ややかな視線を送っているユーリッドは、そう呟いた。
刹那、フリムカーシの瞳が怪しく光り輝く。
どうやら「命令があれば、すぐに実行に移す」という雰囲気なのだろう、現に彼女もエリックの不可思議な踊りに嫌悪感を抱いている。
「で、どうしてなの?」
踊り疲れたのかエリックはピタっと身体を止めると、顔をユーリッドの方向に向け言葉を発する。
踊りに夢中になっていて先程の二人の会話を聞いていなかったらしいが、相手はエリックなので油断はできない。
このように馬鹿に振舞っていても、変にシッカリしている。
「何がです」
「おかしいね。四季を司る精霊は、あの方の命令にしか従わない。そう聞いたことがあるんだけど」
先程の話とは一変、急にシリアスな展開へと変わっていく。
フリムカーシを従えるユーリッドに興味の色を湛えた視線を向け、相手からの回答を待つ。だが、此処で回答を間違えたら大きな誤解を生む。
そう察したユーリッドは、言葉を選びながら答えを話していった。
「別に、おかしなところはありません」
「そうかな? 精霊使いにしては、持っている力が大きすぎる。普通は、有り得ないことじゃないか」
「その答えは、これに書いてあったと思いますが……貴方の持ち物なのに、勉強不足ですよ」
その言葉と共に、受け取っていた手帳を投げ返す。
貴重な物を乱暴に扱うことに対し不満そうな表情を浮かべるも、エリックにしてみれば目の前にある好奇心の塊の方が大事であった。
「ユーリッドという少年の真実を知りたい」この瞬間、エリックは新しい獲物を獲た。
「精霊使いは、嫌われた存在です。彼等にとって、邪魔そのものといえます。勿論、その意味もご存知のはず。いえ、貴方なら真相ぐらいの方でしたら理由を知らないわけがない」
其処で、強制的に言葉を止めてしまう。
その先を言葉で表すには想像以上に辛いものがあり、身体の奥底が痛む。それを無意識に感じ取ったフリムカーシは、そっと後ろから抱き締める。
いつもであったら身じろぎ嫌がる行動であったが、今回のユーリッドは大人しく従う。