風の放浪者
「そうだね。この先は……重過ぎる。先程そちらのレディーが言った言葉が、物語っている」
エリックの何気なく発した“レディー”という言葉に、フリムカーシの神経を逆撫でする。
しかし、相手は悪気を持って言っているわけではなく、いつものノリのいい性格が関係していた。
時として彼の性格は、強大な敵を生み出してしまう。
今回の対象人物はフリムカーシであり、エリックに向けられている視線に殺気が篭っている。
そして、一歩間違えたら本気で殺戮する。
「失われたものを取り戻すには、時間と労力が必要となります。ですが、それを阻害するものがいます」
「聖職者の考えなど、わかっているさ。彼等は、今の地位を失いたくない。失ってしまったら、自由に振舞えないからね。聖職者なのだから質素な暮らしをしてもいいものだが、彼等は違う」
「しかし、僕の祖父が……」
「この問題は、ユー君の祖父だけではない。多くの人間が、同じさ。我等を許したまえ……」
エリックは自身の胸に手を当てると、懺悔の言葉を呟く。
彼の祈りの言葉に、ユーリッドの身体の奥底が疼きだしてくる。
身体に走る痛みに顔が歪みだすが、エリックに気付かれないように装う。
だが、フリムカーシは主人の変化にいち早く気付き、ユーリッドに声を掛ける。
全身から汗が噴出す。
息遣いも徐々に荒くなり、無意識に、身体をフリムカーシに預ける。
苦しそうにしているユーリッドを見ていられなかったのか、椅子に腰掛けるように進めるが、彼は頭を振り「大丈夫」だと言う。
しかし時間の経過と共に、顔色が徐々に悪くなってくる。
「どうした?」
「お構いなく」
間髪いれずに、拒絶の意思を表す。
そのつれない台詞にエリックは肩を竦め、いじけてしまう。
どうやら自分に頼ってほしいという感じなのだろう、それでもエリックに世話などされたくはないというのがユーリッドの本音であり、彼よりフリムカーシの方が信頼している。
「……嫌なことを思い出した。ただ、それだけのことだよ。それに、エリックは関係ないことだよ」
息を吐きながらそのように伝えると、ユーリッドはある出来事を話しはじめた。
それは祖父から聞いた、悲しくも辛くそして惨い惨状。エリックは大まかな概要は知っていたが、そのことを言うことはない。
ユーリッドの口から発せられるからこそ、意味があると考えていた。