風の放浪者
「どうしました?」
「いや、何でもない。ところで、この街で不思議な所はないかな? 祭りを見に行ってきたけど、混んでいるだけで楽しめないんだ。だから、代わりにそういう場所を探検したいと思っている」
「不思議な所ですか?」
「わかる範囲でいいよ」
「それでしたら……」
エリザは、唇に人差し指を当てユーリッドが言う「不思議な場所」について考えていく。
すると何か思い出したのかポンっと手を叩くと、修道院で起こる不可思議な現象について話しはじめた。
それはちょうど深夜を回った頃に起こり、何処からか呻き声が聞こえるという。
「幽霊ですか?」
「此処には礼拝堂もありますので、あちらの世界に行くことができない彷徨える魂が救いを求めて集まるのでしょう。私はその者達が天に行けるように、毎日祈りを捧げているのですが……私の祈りでは駄目みたいです。やはり、偉い司教様でないといけないのでしょうか」
集まってきている霊が自縛霊の一種であったとしたら、彼等を縛り付ける“何か”から解放しなければ、いくら祈りを捧げても効果はない。
ユーリッドはそのことをエリザに告げると、彼女は急に真剣な面持ちを浮かべる。
そして胸の前で両手を組むと、彼に懇願する。
「それでしたら、お願いがあります。その何かを見付けるのを、手伝って下さい。お願いします」
唐突な頼みごとに、一瞬ユーリッドは耳を疑ってしまう。
自縛霊を開放する。
日頃から修道女ではないと言われ続けているエリザは、彼等を救い出し修道女としての地位を高めたいらしい。
それは無謀な提案であったが、ユーリッドに断る理由はない。
寧ろ、都合がいい出来事だ。
「構わないよ」
「宜しいのですか?」
「何か、問題でも?」
「いえ、幽霊って普通は……」
「修道院で、彼等に取り殺されるということはないと思うし……もしかして、幽霊が怖いのかな?」
次の瞬間、エリザの顔が見る見る赤く染まっていく。何ともわかりやすい態度に、ユーリッドは噴き出していた。
修道女であったとしても、幽霊が怖い。
これまた可愛いことであり、実に女の子らしい反応といえる。
いや、変に強情になるよりこれはこれでいいとユーリッドは考える。