風の放浪者
「私は、お願いをしただけです」
「願い?」
「たいしたことでは、ありません。それに、悪い意味はございません。ですから……その……」
必死になって弁解しているエリザの姿に自身が此処にいることが相応しくないと感じ取ったユーリッドは、部屋に帰ることを伝えるとそそくさと立ち去る。
その冷たい態度に、異端審問官は忠告を与えた。
「所詮、俗世の男は自分のことしか考えていない。正しい教えを信じ、正しい道を進む。それが、我々の行うべき道だ」
「……はい」
そう言い残すと異端審問官はエリザの肩を叩き、その場から離れていく。
念を押すような態度にエリザは、自身が何をすべき存在なのかそれを改めて知った。
その瞬間、修道女という立場を自覚する。
◇◆◇◆◇◆
その夜、ユーリッドとエリザは礼拝堂の中にいた。
それは調査の前に祈りを捧げたいというエリザの頼みごとが関係し「困った時の精霊頼み」という言葉を行動で表していた。
そのことに都合のいい信仰だと思うユーリッドであったが、それを言葉に出すことはしない。
「やはり、怖くて……」
「謝らなくていいから。好きなだけ祈るといいよ」
ユーリッドの言葉にエリザはコクコクと頷くと、知っている限りの精霊の名前を述べていく。
勿論、下級・中級・上級の精霊は関係ない。
流石にここまですると、唖然となってしまい「そんなに祈ってどうする」と突っ込みを入れたくなってしまうが、エリザの名誉の為に此処は堪える。
刹那、何処からか怪しい声音が礼拝堂に響く。
その声にエリザは身体を震わすと祈りを止め、周囲に視線を走らせる。
一方ユーリッドは反射的に振り返ると、声が聞こえてきた方向を探っていく。
だが声というものは見えない存在なので、場所の特定は思った以上に難しい。
「聞こえたね」
正直に言うユーリッドの言葉に、エリザはか細い悲鳴を上げてしまう。
そして、再び祈り出した。
今度の祈り方は、先程より真剣そのもの。
半泣き状態のエリザは、早くもギブアップ状態寸前であった。こうなってしまうと、エリザを当てにすることはできない。
そのように判断を下したユーリッドはエリザを残し、一人で声が聞こえてきた位置を特定していく。