風の放浪者
「怖くないのですか?」
「幽霊といっても人間だし。怖くはないよ」
「お強いですね」
「そうではないよ。そう、取り殺しはしない」
無意識に発した言葉に、エリザは身体を震わす。取り殺す――それは、恨みで相手を殺す行為。
しかし、それは悪霊と呼ばれている者が行うもので普通の霊がそれをすることはない。
それに悪霊は聖職者達の敵なので、それがいるとうのならエリザが始末しないといけなかった。
「冗談だよ」
「冗談も、時と場合があります」
全身を恐怖が支配しているエリザにとって、少しのことでも大事に捉えてしまう。
彼女の面白い反応を楽しみつつ、ユーリッドは本来の目的を果たす為に色々と見て回ることにした。
夜の礼拝堂は何処か神秘的で、独特の雰囲気を醸し出している。
月の光を反射させたステンドグラスが煌びやかに輝き、昼間とは違った印象をユーリッドに強烈に印象付けていた。
ステンドグラスから放たれるほのかな光は水彩画のような色合いを床に投影させ、其処に浮かび上がっている絵は全体的に滲んでしまっていたが、これはこれで美しいものであった。
その上に足を乗せ、天井を見上げる。
複数の天窓からは満天の星空が見え、雲ひとつないということを教えてくれる。
ふと、冷たい風が礼拝堂の中を吹き抜けていく。
そのことにユーリッドは過敏に反応を見せ反射的に周囲を見回すも、エリザは特に反応を見せてはいなかった。
「どうしました?」
「いや、何でもないよ」
エリザに今以上の恐怖を与えてはいけないと、冷静な声音でそのように告げる。
しかしユーリッドは、周囲に漂う怪しい雰囲気に気を配らせていた。
その時、男の声が耳に届いた。
「……誰だ」
囁く言葉に続き、相手が何かを訴えかけてきた。
途切れ途切れであったが、言いたいことは伝わってくる。
一通り相手からの言葉を聞くと、ユーリッドはエリザに何も告げず礼拝堂の外へ向かう。
エリザは、慌てて彼の後を追う。
すると礼拝堂から少し離れた場所で立ち尽くし、耳を済ませているユーリッドの姿に気付く。
その不思議な光景にエリザは首を傾げると、何をしているのか声を掛けようとする。刹那、白い光がエリザの横を流れるように通り過ぎていった。