風の放浪者
「お前の立場も落ちたようだ、フリム」
『噛み殺しても、宜しいでしょうか?』
「止めておけ。お前が汚れる」
その命令に頭を垂れると、身を屈め背に乗れるようにする。
それに従うようにユーリッドはフリムカーシの背に乗ると、呆然と立ち尽くしているエリザを掴まえるように指示を出す。
「えっ! きゃあ!」
フリムカーシはエリザの襟首を口で掴むと、そのまま一気に修道院の屋根の上に飛び乗った。その一瞬の出来事に、エリザの間延びした悲鳴が響いていく。一拍の後、周囲が慌しく動く。
修道院で起こった前代未聞の出来事に、ユーリッドを捕まえようと多くの人間が動く。しかしフリムカーシに捕まったエリザは相手にしないのか、誰一人として彼女を気に掛けない。
「何としてでも、奴を捕まえろ!」
指示を出している者達の表情は、聖職者という一面は表れていなかった。
ただ「憎らしい対象」と認識し、捕まえたら甚振るとしか考えていない。
異端審問官――彼等はある意味で、死を楽しんでいた。
片腕を失った者が、大声で泣き叫んでいる。
まさかこのような目に遭うとは思っていなかったらしく、周囲に助けてほしいと懇願するが誰一人として救いをその者に齎すことはしない。
どうやら「異端者にやられた愚か者」という烙印を押されてしまったらしい。
非情とも取れる仲間の行動にその者は、汚い言葉で罵っていく。
刹那、腕を失った者の時間が止まった。
「……虚しいな」
一言そう呟くと、ユーリッドはエリザをフリムカーシの背中に乗せる。
そして振り落とされないようにシッカリとしがみ付くように言うと、早く立ち去るよう命令を下す。
その命令に応えるようにフリムカーシは三本の尾をゆらゆらと揺らすと、屋根伝いに街の外に向かった。
『同族意識もないのか、人間とは……』
目の前で行われた残虐行為にレスタは珍しく素直な感想を述べるが、それ以上の反応を示すことはしない。
関心がない――というのが正しい見方だろう、レスタは空中に気配を溶け込ますとユーリッド達の後を追う。
仲間達によって時間を止められた者は、静かに地面に横たわっている。
そう、仲間達が彼を殺害したのだ。
泣き叫んで煩いという理由で。
それに片腕を失った使えない者であるから、このように簡単に切り捨ててしまう。
だから異端審問官は、聖職者の中では異質な存在といえよう。