風の放浪者
「修道女といっても、所詮は何も知らない」
「知っています!」
「何をかしら? 偽りを述べたら、こうよ」
フリムカーシは人差し指を水平に立てると、己の首を掻っ切るような動作を見せる。
それは相手を脅すだけの行動であったが、それを本気に捉えたエリザの顔から血の気が引いていく。
「さあ、答えなさい。貴女の真実を」
「……この世界は、精霊が守護しています。その精霊は竜という存在が生み出し、世界を支える使命を帯びており……ですが、世界は一度崩壊し……創造主が、それを再生しました」
震える声音で、エリザは懸命に答えていく。
自分が、上から教えられたことを――だが、目の前に座るフリムカーシは満足していない。
それどころか、表情が徐々に変化していっている。
その表情にエリザは「何故」という表情を浮かべ嗚咽を漏らし、とうとう泣き出してしまう。
「……偽りね」
「で、ですが……」
「聖職者は、己の立場を守るのに必死だ。それ故、下々の者に都合がいい内容を吹き込んでいく」
二人の会話に、ユーリッドが割って入る。
エリザは慌てて助けを求めるが、瞬時にそれが無理だと気付く。
エリザを見詰めている視線が、獲物を狩る獣の瞳に等しい輝きを宿していたからだ。
「安心していい、殺したりはしない。ただ、エリザには神話の真実を知ってもらう必要がある」
「真実? あれが、真実ではないのですか? それに、どうして私なのですか。他の人物でも……」
「エリザは一般的な教えというものに従っているだけで、本質は汚れていない。だから貴女を選んだ」
ふと、ユーリッドの側から漂う不思議な雰囲気を感じ取ったエリザは「誰がいるのですか?」と、尋ねる。
するとフリムカーシの笑い声に混じるように、姿を消しているレスタの笑い声が響く。
その冷たいまでの笑い声にエリザは身体を震わすと、左右に視線を走らせた。
『主、やはり買い被りのようです』
言葉と共に、レスタが姿を現す。
薄い青色の髪は顔半分を覆い隠し、微かに覗き見る瞳は血のように赤い。そして彼が纏う服は深海の如く暗く、レスタという人物の本質を表しているかのようだ。
身長はユーリッドより高く、確実にエリザを見下している。
刹那、形の良い唇が緩んだ。