風の放浪者
「人間が、何をしたというのですか?」
「……血肉を求めたのだ」
次の瞬間、硬く閉じた瞼が開く。
血肉を求める。
暫く、レスタが何を言っているのか理解することができなかったが、時が経つにつれ創造主相手におぞましい行為が行われたことに気付き、エリザは慟哭に似た悲鳴を上げていた。
「聞け! 人間達は、創造主に手を出したのだ。不老不死と完全なる力を欲するという、愚かな理由で。浅ましく身の程を知らないというのは、お前達人間だ。この腐った肉塊どもが」
両手で耳を塞ぐエリザの耳元で、レスタが囁き掛ける。
彼の言葉にエリザは首を振り聞きたくないという意思を示すが、それが許されることではない。
彼女の逃げの行為にレスタはエリザの手首を掴み、真実から逃れることを許さない。
手首から伝わる激痛にエリザは顔を歪ますが、レスタは「それがどうした」という素振りを見せ、凛とした口調で続ける。
創造主は、これ以上の痛みを感じたと――
「人間は、生まれながらにして大罪を背負っている。原罪――それが、神話の真実。確かに、世界は生まれ変わった。だがその代償がこのようなこととは、実に嘆かわしいことだよ」
「エリザ、聞くといい。異端審問官に捕まった者達は、皆殺されてしまった。その方法は様々だが……」
刹那、ユーリッドが苦痛に呻く。
己の身体を抱き締め懸命に耐えるその顔からは、汗が滲み出ていた。
突然の変化にフリムカーシが石から腰を上げようとするも、先にレスタが動く。
どうやらこうなることを予見していたのだろう、レスタはユーリッドを包み込むように抱き締めると汗を拭う。
まるで弟を心配する兄のようにも見えたが、二人の関係は決してそのようなものではない。
「大丈夫ですか」
「……過去を思い出すと、身体が疼く」
「人の器は、脆いものですから。それに、主の過去は……それを思いますと、仕方がありません」
「……暫く、力を解放する」
「御意」
彼からの言葉を受け取ると、レスタはフリムカーシに視線で合図を送った。
一方それを受け取ったフリムカーシはゆっくりと腰を上げると、震えるエリザを後方から抱き締めた。
唐突な行動に目を丸くするエリザであったが、片手で口を塞がれてしまい言葉を発することができない。