風の放浪者
「聖職者に触れるなんて、虫唾が走るわ。しかし、貴女を殺すわけにはいけない。マスターは、生かせと命じた。だから、癪だけど護ってあげるわ。その後は、どうなっても知らないけど」
次の瞬間、圧縮した空気がユーリッドを中心にして広がり、何かを押し潰さんとする物凄い音が響きあらゆる物を破壊していく。
岩は砕け散り、太い枝を持つ木々が薙ぎ倒される。
その力はエリザに向かって襲い掛かってくるが、フリムカーシが生み出している結界に阻まれ霧散する。
ユーリッドが発する凄まじい力に、エリザの身体が小刻みに震える。
それでも状況を把握したいという好奇心が疼きだしたのか、周囲の状況を確かめるように視線を周囲に走らせる。
ふと、口を押さえていた手が取り除かれた。
そのことに喋っていいと判断したエリザは口を開こうとするも、見上げた視線の先にあるフリムカーシの表情に言葉を発することができなかった。
彼女の真剣な眼差しが、一点に向けられている。
フリムカーシはエリザを解放すると身を屈め、目の前にいる相手に向かい跪く。
彼女は、秋を司る最高位の精霊の一人。
その人物が膝を折るのは――
反射的にエリザは、彼女が膝を折る相手に視線を向ける。
視線の先にいたのは、白に近い銀色の野髪を持つ同年代の少年。
だが、姿形や雰囲気は間違いなくユーリッドそのものであった。
「主、身体の方は……」
「平気だ。やはり、此方の姿の方が動きやすい」
言葉と同時に、ユーリッドはが振り向く。
その瞬間、解けた銀色の髪は大きく揺れある物を印象付ける。
それは、両耳の側から覗く象牙色の角。
それを見たエリザは、彼が人間ではないということを確信した。
「どうした?」
驚いた表情を見せているエリザに、ユーリッドは優しく語り掛ける。
目を細め相手を見詰める双眸も変化しており、その色は青ではなくオレンジ。
そう、夕暮れの空と同じ色をしていた。
今まで語り継がれてきた神話は偽りで、真実は残酷そのもの。
そして、ユーリッドの正体は人間ではない。
我が身に起こった出来事に、エリザは混乱し全てを受け入れるのに時間が足りなかった。
「精霊?」
混乱が続き正しく整理できていない頭では、正しい解答を導き出せない。
結果、思い付いた単語をそのまま言葉として表してしまう。
エリザの見当違いの回答にレスタはフッと鼻で笑うと、冷ややかな視線を送る。
また、フリムカーシも冷笑すると殺気に似たオーラを放つ。