風の放浪者

 高位の聖職者は、それを知っていた。

 知っていたからこそ、あたかも自分達が正しいと演じた。

 嘘を隠し、真実が明るみにならないようにする。

 しかし、それが精霊達の逆鱗に触れることも知らず。

「彼女は、許してくれるか?」

『貴方様のお言葉なら、何なりと……』

 その言葉に、エリザは心臓を打ち鳴らす。

 何故、私を許してくれるのか――思わず頭を振ってしまう。

 自分は聖職者の一人であり、彼等の憎しみを受けるべき存在と思っていた。

 だが、彼等はリゼルの言葉を受け入れた。

「エリザ、罪を償うのは人間だ。しかし、全員ではない。時の流れと共に真実を消し去ったことは許されないことであるが、そのように差し向けた人間がいることは事実。それはエリザが信じていた奴等だ」

 精霊は何も言わない。

 そして、何も伝えない。

 ただ、人間という生き物を見守るだけ。

 精霊が教えを生み出したのではなく、人間が勝手に生み出したのだ。

 精霊信仰が誕生した当時に。

 その時は、今のような教えではなかっただろう。

 歪み狂ったのは、千年前からである。

 精霊は、世界を支える存在。

 我々が平和に生きていけるのは、彼等のお陰だ。

 だからこそ、祈り続ける。

 エリザが修道女として生活をはじめた時、上からそのように教えられた。

 しかし真実を知った途端、その言葉も偽りに思えてしまう。

 全ては、自分達を守る為の言葉であった。

 そのように正しいことを言えば、悪しき部分から目を背けることができる。

 それが、彼等のやり方。

「眠るがいい。そして、有難う……」

 囁くように発した言葉に、エリザは涙がこぼれてくる。

 そして「御免なさい」と何回も叫び、深々と頭を下げる。

 このように謝って罪が償えると思えないが、やらないわけにはいかない。

 老人は何も言わなかったが、表情を見るところ怒っている雰囲気はない。

 それに今まで襲い掛かってきた者達も、動こうとはしなかった。

 どうやら、怒りの対象はエリザではないと気付いたようだ。

「汝の罪、許そうぞ」

 刹那、周囲が明るく染まる。

 それは罪から開放された証であり、老人は満面の笑みを浮かべると胸元に片手をあて頭を下げる。

 そして頭を上げたと同時に、足元から溶けるように消えていく。

 それは、老人だけではない。

 光の塊も次々と空中に溶け込んでいき、天に登っていく。

 まるでその光景は、蛍が一斉に飛んでいっているようだ。

 ふと、エリザの耳にある言葉が聞こえてくる。

 それを聞いた瞬間、エリザは声を上げ泣き出しその場に崩れ去ってしまった。
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