小咄
「真砂だって、わらわがいいんじゃないの?」

 不意に、深成がにやりと笑った。
 が、真砂は目を閉じたまま、素っ気なく答える。

「当たり前だろ。野郎よりもお前のほうがマシだ」

「違うでしょっ。千代だったら、いっつもさっさと追い出すじゃん。真砂が自ら部屋に入れてくれるのって、わらわだけじゃん」

 ぱち、と真砂の目が開く。
 ちょっと面白そうな表情で覗き込んでいた深成が、ぎゅむ、と真砂に抱き付いた。

「真砂だって、わらわのこと、結構好いてるでしょ」

「……凄いこと言うな。どんだけ自分に自信があるんだ」

「違うも~ん。六郎兄ちゃんがわらわのこと好きなように、真砂もわらわのこと、嫌いではないってことだも~ん。真砂に嫌われてたら、こんなことしたら殺されちゃう」

 確かに真砂の性格なら、よっぽど気に入ってないと、ここまで構うことはしないだろう。
 そう考えれば、真砂は深成のことを、相当構っているのだ。
 相手が千代やあきなら、ここまでしないだろう。

「まぁ、確かにな。お前は犬みたいなもんだし」

 馬鹿にしたように言うが、深成は特に反応せず、相変わらずぺとりとくっついている。

 そのまましばし、しん、と時が流れる。
 てっきり寝たと思っていた深成が、不意にぼそ、と呟いた。

「わらわ……真砂が好きなのかも」

「ん?」

 真砂が聞き返す。
 好き、とは言っても、深成のそれは、油断出来ない。

 深成にとって、Loveに値する男が存在するのだろうか。
 そもそもそこまで想う相手が、この幼い子供にいるとも思えない。

「わらわだってね、ただ好きなだけの人に、こんなくっついたりしないもん。好きなだけっていうか……。う~ん、難しいけど、あんちゃんとか六郎兄ちゃんとか考えても、やっぱり真砂がいいんだよね、わらわは」

 真砂がちょっと妙な顔をして深成を見る。

「あんちゃんも好きなんだけど、あんちゃんに抱っこされても、う~ん、ここまで安心出来ないっていうか。安心っていうか……何か……嬉しいっていうのかなぁ」

「あいつは歳が近いからじゃないのか」

「だったら六郎兄ちゃんだったらいいわけじゃん? 六郎兄ちゃん、真砂よりも年上だよ? 歳が離れてるほうがいいってんなら、六郎兄ちゃんが一番じゃん」

「違うのか?」

「違う。安心は出来るかもだけど、嬉しくは……ないかも」

「俺に抱かれると嬉しいのか?」

「真砂、いやらしい。嬉しいっていうか……」

 ちょっと頬を染めて、深成が軽く真砂を睨む。
 『抱く』というと、状況が状況だけに、どうも違う意味に聞こえてしまう。

「何て言えばいいんだろ」

 困ったように言いつつ、深成はまた、ぺと、と真砂に抱き付く。
 真砂も、きゅ、と抱き締めてみた。
< 169 / 497 >

この作品をシェア

pagetop