小咄
 次の日の朝早く、シェアハウスの玄関が、そろ~っと開いた。
 続いてあきが、顔だけをこれまたそろ~っと覗かせる。

 その状態のまま、きょろきょろと玄関から見える居間とキッチンを見回す。
 誰もいないと知るや、さささっと身体をドアの隙間から滑り込ませ、音なくドアを閉める。
 まるで泥棒のようだ。

 しばしドアの前で動きを止め、もう一度家の中を見回してから、あきはおもむろに、それぞれの部屋のある廊下のほうへと目をやった。
 真砂の部屋のドアを見、次いでその前の深成の部屋のドアを見る。
 当然ながら、どちらも閉じられ、物音一つしない。

---外には車があったわ。真砂さんは帰ってるはず。深成ちゃんも帰ってるんじゃないかしら。昨日は六郎さんと会ってたようだけど、あの六郎さんのことだもの、昨日の嵐じゃ、早々に深成ちゃんを帰したかもしれないし---

 となると、シェアハウスにいるのは真砂と深成だけだったはず。
 何か面白いことになっているのではないかと、期待に胸を躍らせつつ、始発とまではいかないまでも、それに近い早さの電車で帰ってきたのだった。

---まだ寝てるか。さすがに真砂さんの部屋を覗く勇気はないわぁ。……あら?---

 ふと足元に視線を落とすと、見慣れない靴がある。
 大きさからして男物のようだ。

---真砂さんの靴じゃないわ。捨吉くんのでもないし……---

 はて、誰かいるのだろうか、と考えたあきは、次の瞬間、あっと心の中で叫んだ。
 一瞬のうちに目尻が下がり、口角が上がる。

---そっか! きっと六郎さんだわ! 大方帰れなくなった六郎さんを、深成ちゃんが連れてきたんだ!---

 うわぉ、これはまた面白い展開だ、と、あきはそそくさと靴を脱ぐと、そろそろと足音を忍ばせて、奥に続く廊下に立った。
 じいぃ~っと神経を集中して、真砂と深成の部屋のドアを見る。

 が、あきも超能力者ではない。
 いくら集中しても、閉まった扉の向こうの様子などわからない。

---居間に誰もいないってことは、全員お部屋で寝てるってことだわ。でも六郎さんは住人じゃないから部屋はないし、となるとあの人が使えるのは深成ちゃんの部屋だけ---

 真砂が部屋を貸すわけない。
 故に、真砂の部屋で六郎が寝ていることはあり得ない。

---この前みたいに、三人で真砂さんの部屋で寝てるかもだけど。多分、それはないわ。真砂さんは前でこりごりだろうし---

 じ、と真砂の部屋のドアを見ていたあきは、ちらりと深成の部屋のドアへと視線を転じた。
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