小咄
「くだらねぇこと言ってねぇで、ほれ、これ持っていけ」

 再び真砂の声がし、見ると深成がトレイに山と積まれた鶏肉を運んで来ていた。

「はい、メインの鶏肉だよ〜」

「わぁい。真砂さんの味付け鷄、最高に美味いんだよな」

 捨吉が早速、鍋に鶏肉を入れていく。

「六郎兄ちゃん、食べてる?」

 やっと深成が、六郎の横に来て座った。
 六郎は、ちらりとキッチンを見た。
 真砂もようやく用意を終えたようで、軽くその辺りを片付けて、手を洗っている。

「ご苦労さま。深成ちゃん、いっつもこんな感じなの?」

「ん?」

「あの人と深成ちゃんが、食事の用意を?」

「ううん、そんなことないよ。いつもは皆で作ったりするし。真砂だけかな、完全に一人で用意するの」

「へぇ……」

 微妙な顔の六郎にも気付かず、深成は椀に具材を入れていく。
 それを、前に座った真砂に差し出す。

「はい、真砂の分ね」

 これまた当たり前のように、真砂が受け取る。
 取り分けることなど、特に意識することでもないだろうに、やけに気になり、六郎は深成の様子を窺った。

「真砂は何飲む?」

「ビール」

 わかった、と、深成が冷蔵庫に取りに行く。
 意識して見ていると、真砂の世話は全て深成がしているようだ。

「じゃ、真砂さんと深成、お疲れさま〜。六郎さん、いらっしゃ〜い」

 新婚さんかよ、という掛け声をかけ、捨吉が持っていた缶ビールを高く掲げる。

「かんぱ〜い」

 深成も持ってきた真砂のビールを掲げ、かつんと缶を合わせた。
 そして、ぷしっと缶を開け、一口飲む。

「苦〜〜っ」

 ぎゅっと顔を顰めて舌を出す。
 真砂が、そんな深成の手から、缶を奪った。

「飲めもしないくせに、人のビールを飲むんじゃない」

「ノリだよ〜。どうせ真砂、乾杯しないじゃ〜ん」

 んべ〜っと舌を出し、深成は自分の椀に取った肉にかぶりついた。
 そのまましばらく、もしゃもしゃと頬張る。

「あれ深成ちゃん。深成ちゃんは何も飲まないの?」

 六郎が、ひたすら鍋に食らい付く深成の周りを見ながら言った。
 さっき持ってきたビールは、真砂のものだけだった。
 まさか真砂のビールを一緒に飲むのだろうか、と思っていると、捨吉が、ひょいと大きなうさぎ柄のグラスを取り出した。

「深成はこれだよね」

 言いながら、千代の横に置いてある梅酒を少し入れる。
 その上に、千代がオレンジジュースを継ぎ足した。
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