小咄
 ドアを開けると、すぐさま奥から深成が駆け出してくる。
 いつもは『お帰り』と言いながら鞄を受け取るだけなのだが、ここ数日は『お帰り』と言いながら、べったりと抱きついてくる。
 お陰で真砂は、引っ付き虫の深成を抱えたまま、リビングに行くことになるのだが、それはそれで嫌ではない。

 真砂も毎日、深成と同じようなもやもやが溜まっているからだ。
 深成はともかく、十歳以上年下の若者に嫉妬するのも大人げないとは思うのだが、そのわりに深成がくっついただけで機嫌が直る辺りが単純である。

「そんなにあいつが嫌なのか?」

「嫌じゃないよ。でも何か行動が読めないというか。不安になるんだもん。あの子自体はいい子だよ」

「まぁ……確かにちょっと、変わった奴ではあるかな」

 首を傾げつつ、真砂も言う。
 何がどう、というわけではない。
 別に六郎のように、変に深成を構うわけでもないのだが、不意の行動が常人離れしている。

「ていうかさ、今日惟道くん、わらわの手ごとマウス操ったけど、昔真砂も同じようなことしたよ?」

「それはお前だからだ」

 さらっと言われ、深成は少し驚いて真砂を見た。

「え、じゃああのときから真砂、わらわのこと好いてくれてたの?」

「さぁ……それはどうだろう」

 にやりと笑みを浮かべて、真砂は上着を脱いだ。

「そこはそうだって言ってよ」

「そんなんわかるかよ。じゃあお前はいつから俺のこと好きなんだ?」

 逆に聞かれ、深成はふくれっ面ながらも、うーん、と考えた。
 言われてみれば、はっきりいつから、とはわからない。

「ま、初めっから気に入ってはいたがな」

「わらわも真砂のことは、昔から好きだったもん」

 ただそれは、捨吉や清五郎のことを『好き』というのと変わらないような。
 はっきり真砂だけを男として好きになったのはいつなのか、そこはわからない。

「わらわだって、嫌いな人に手掴まれたら引っ込めるよ」

「でも、あいつのときは引っ込めなかったじゃないか」

 ちょっと拗ねたように、真砂が言う。
 すかさず再び、深成は真砂に抱きついた。

「違うんだもん。あの子は何て言うか……。自然すぎるというか。う~ん、真砂も自然だったけど、でもわらわの手を掴んでることはわかってたでしょ? あの子はそれすらわかってないみたいな感じなんだよ」

「……確かに。あいつに限っては、何かそれが納得できる……」

 普通だと一瞬で真砂の排除リストに名が刻まれるところだが(六郎のように)、惟道に限ってはそういう、言ってしまえば下心的なものが全く感じられないというか。
 いっそ不自然なほど自然に、驚くべき行動を取るのだ。

「自然といえば、清五郎もそうなんだが……」

「あ、確かに」

 何をしても下心を感じない、という点では、清五郎も同類だ。
 が、清五郎はちゃんと人間味も感じる。

 惟道には人間味がない。
 全く、と言っていいほど。

「な、何か、考えれば考えるほど怖くなってきた……」

 深成が、ぎゅ、と真砂に抱きついてくる。

「う~ん、まぁそうはいっても、別に奴が幽霊ってことはないんだし」

 少し笑いながら、真砂は深成の頬に手を添えた。

「そんなにあいつが気になるのか?」

「気になるわけじゃないよ。不思議すぎて印象に残るんだもん」

「じゃあそれを払拭してやるよ」

 言いつつキスをしながら、ソファに倒れ込む。

「ちょ、ちょっと真砂っ。帰って来たばっかりじゃん。ご飯っ、お腹空いてるでしょっ」

「お前が他の男を気にするからだ」

「気にしてないってばーっ!」

「手ぇ握られただろ。海野のときはすぐに突き飛ばしたくせに、何で今回は大人しくしてたんだよ」

「あ、あれは抱きしめられたんだもんっ」

 確かに以前、研修に来ていた六郎に資料室で抱きしめられたときは、いきなりだったにも関わらず、反射的に突き飛ばして逃げた。
 はっきりと、嫌だ、という感情が湧き起こったのだ。

 が、今回はそんな感情は起こらなかった。
 手を握られた、というだけだからかもしれないが、はたして惟道に抱きしめられたところで、六郎のときのように身体が動くだろうか。
 考えてみれば、何だか惟道に関しては、その雰囲気に呑まれてしまう、という気がする。

「……やっぱりあの子、何か……怖いよ」

 ぼそ、と言い、深成はぎゅっと真砂に抱きついた。
 惟道ほど人間味のない者がおろうか。

「俺はお前がそう思ってるから、返って安心できるがな」

「真砂ってやきもち焼きだよね」

「そうだな。自分のものにちょっかい出されるのは我慢ならん。お前に触れていいのは俺だけだ」

 そう言って、深成の右手にキスを落とす。
 そしてそのまま、深成の服を脱がしていった。
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